枠にて好評放送中のTVアニメ『ユア・フォルマ』。本作よりスペシャルビジュアル第1弾・斎藤千和(レクシー役)×豊永利行(ファーマン役)インタビューが公開された。
──まずは、お二人が感じる『ユア・フォルマ』という作品の魅力を教えてください。
豊永 最初に現場に入ったときに、尾崎隆晴監督から「このアニメでは、『ユア・フォルマ』の世界観やアミクスについてなどを一から説明はせず、最初から
“そういう世界である
”という形で第1話がスタートします」という説明を受けたんです。それを聞いたとき、僕は正直、「その始まり方で、ちゃんと視聴者に伝わるのかな?」と思ったんですが、ダビングされた映像を観たら、わからないところはわからないままで話が進むけど、事件の謎が解けるのと同じタイミングでその疑問が解けていく感じがすごく気持ちよくて。いつの間にか物語に引き込まれていたんです。そういうカタルシスが、このアニメ『ユア・フォルマ』の魅力だと思います。この構成ってなんだか海外ドラマっぽいですよね。
斎藤 こういう重厚な世界観って詳しく説明しすぎると逆にチープになってしまうし、謎は謎のままで始まって物語が進むにつれて次第に理解していくという感じは、かえって作品の世界観に合っていていいなと思いました。そもそも原作の設定にリアリティがちゃんとあるから、説得力があるんですよね。難しい単語がいっぱい出てくるけど聞いているとわかる構成になっているし、わからない言葉も「きっとこういう意味なんだろうな」となんとなく想像できて。だから、たぶん最初は「難しそうだな」と思う方もいるでしょうけど、世界観に入ることはそれほど難しくないんじゃないかな、と。その説得力とリアリティが、掘り下げれば掘り下げるほどどんどん面白くなっていくこの作品の魅力なんだと思います。
──台本を読んだ感想を教えてください。
豊永 率直に、「難っ!」って思いました(笑)。僕は今回、原作を先に読まず、台本と一緒にやっていこうと思ったのですが、ファーマンは最初のうちは自分の目的や思惑をまったくしゃべらないので、彼の人物像は現場で聞いていかないとわからないな、と。第1話で現場に入ったとき、尾崎監督から「簡単に言うと、犯人です」という説明は受けましたが、具体的な動機などは知らなかったので、毎週台本をもらうたびに一緒に追いかけていくのが楽しかったです。
斎藤 私も、「難っ!」でした(笑)。まず用語を1個1個覚えるところから始めたんですけど、レクシーは本当に難しいセリフが多くて多くて……。
豊永 しかも、最初から「難しい用語を当たり前に言える人」として演じないといけないですからね。
斎藤 そうなの!あと、天才ってだいたい書いてある言葉そのままの心情では言わないので、演じるのが毎回めちゃくちゃ難しいんですよ。特にレクシーは「これは本心なのかな?」と思うセリフがたくさんあって、尾崎監督に都度質問していました。ほかにも、長い言葉がたくさん出てくるので、その言葉の意味やどこで切るのがいいのかといったテクニカルな部分も含めて、現場で逐一確認しつつ補完しながらやっていましたね。
──レクシーとファーマンに対しては、どんな印象を感じましたか?また、演じる際に意識したことがあれば教えてください。
斎藤 レクシーは……怖いですね〜。友達にはちょっとなりたくないかなって思います(笑)。アフレコ中、尾崎監督に「この人はファーマンや自分が作り出したアミクスに対して、好意を持っているんですか?」と聞いてみたんですよ。そうしたら監督はきっぱり、「ないです」って。
豊永 「ファーマンの顔にしか興味ないです」って言っていましたよね。
斎藤 もちろんレクシーはそれをあえて出してはいないので、芝居には乗せていないのですが、それを聞いたときに「怖っ!」って思いました。しかも尾崎監督はその一番怖いところの針の穴を通すような芝居を求めるから、自分でも「怖いよ〜!」って思いながら演じていましたね(笑)。そんなレクシーと反対に、ファーマンは感情移入しやすいキャラクターという気がしました。現場でもみんな「ファーマンかわいそう」って言っていましたよね。
豊永 そうですね、ファーマンの犯行の理由は、「RFモデルのブラックボックス部分を悪用してはいけない」「だからレクシーを止めないと」という至極まっとうな考えが根本にあったわけですし、そういう意味ではすごく人間らしくて、しっかりとした倫理観を持った人なんだと思います。もちろんやったことはよくないですけど。研究所での問答も、僕はファーマンに感情移入して、「ヒエダ電索官、何を躊躇しているんだ!ハロルドがいなくなってしまうとか、迷っているんじゃないよ!!」って思っていました(笑)。ファーマンは、レクシーとは対照的な、「感情で動かされるタイプの研究者」という位置づけなんだなと思っています。台本のセリフで感情が動くときはストレートに感情を動かして、逆に淡々とするところは感情を押し殺すイメージで演じさせていただきました。
斎藤 第4話の冒頭で、レクシーとファーマンの過去を描いた回想シーンがあったじゃないですか。私、あれは絶対ファーマンの記憶の映像だと思うんです。フワフワしていて、いい感じの思い出として描かれていて、私自身も思わせぶりな言い方で演じてはいたけど、それはファーマンの目を通しているからああ見えていただけであって、きっとレクシーの中ではもっと淡々とした記憶として終わっているんだろうな、と。たぶんRFモデルにファーマンの顔を使ったのも、レクシー的には単純に「ピンクが好きだからピンクにしよう〜♪」ぐらいの感じだったんでしょうね。
豊永 ファーマン、本当に不憫なヤツ……。
斎藤 レクシーはRFモデルのことを「愛する息子」と言っていましたけど、たぶんそれも、私たちがイメージする「愛する息子」とは全然違うニュアンスだと思います。たぶんレクシーにとっては「自分が作り出した作品の集大成」くらいの意味なんだろうな。
豊永 愛情の形が我々とは違いますよね。
──特にお二人の印象に残っているセリフやシーンはどれですか?
豊永 僕は第4話の、データをアップロードするか、消去するかでひと悶着するシーンが印象に残っていますね。あのときにファーマンはレクシーの足を撃つんですけど、一方のレクシーはファーマンの腹を撃っていて。その撃つ場所の違いに、二人の優しさの違いが表れているなと思いました。
斎藤 レクシーは完全に殺す気で撃っているよね。
豊永 そうなんですよ、そこがそれぞれの人間らしさと残酷さの象徴だなという気がしました。
斎藤 私はやっぱり、さっきも話に出た第4話冒頭の回想シーンです。木陰で二人が話す、すごく素敵なシーンなんですけど、私が思っていたレクシー像とあまりにも印象が違っていて、すごく違和感があって。私の中ではレクシーは、記憶の映像に色がついてないイメージなんですよね。だから、ラストの幕引きのところでは逆に「そうそう、私が思っていたレクシーはこっち!」となりました(笑)。あと、第4話の前半パートラストで、レクシーがRFモデルと敬愛規律について語る長ゼリフがあるんですが、それも印象に残っていますね。この世界にとってものすごく重要なことを言っているんですけど、レクシーはそれが心底どうでもよさそうで。回想シーンとの印象のギャップがあまりにも大きすぎて、めちゃくちゃ怖いなと思いました。ある意味、彼女が一番ロボットみたいですよね。人間だけど、人間っぽくないというか。それはすごく皮肉だなと思います。
──アフレコ現場の思い出も教えてください。
斎藤 豊永くんとちゃんと一緒に芝居をしたの、めちゃくちゃ久しぶりだったよね!これだけがっつり会話をしたのってたぶん20年ぶりくらいじゃないかな?私はそれがすごくうれしかったです。
豊永 僕もうれしかったです。久しぶりに千和さんだー!って(笑)。そのときとは役柄が全然違いますけどね。
斎藤 お互い大人になったよね(笑)。シリアスな作品ですけど、現場の雰囲気はすごく明るくて楽しかったです。「言葉が難しい、言えない」という同じ悩みを抱えた人同士、みんなで励まし合ったりもして(笑)。
豊永 そうそう、「ハロルド」とか「ヒエダ電索官」が言えなくて嚙んでしまっても、誰も責めたりしない(笑)。僕はよく(トトキ役の)遠藤綾さんと「この言葉、言えない!」「これってどういうことなんだろう?」と話していました。
──第1話から第4話はレクシーとファーマンの才能がぶつかるという内容でしたが、お二人がお互いに声優として羨ましいと思う部分はありますか?
斎藤 羨ましいと思うところしかないです。
豊永 いやいや、それはこっちのセリフですよ!レクシーの芝居も、淡々と、飄々としたしゃべり方の中に、ちょっとだけ毒を入れる千和さんのさじ加減がもう最高で!あのSっ気がある感じをたぶんファーマンは気づいてないんだけど、僕自身はそれを感じたので、「そのニュアンスの込め方、絶妙すぎる!俺、それ、めっちゃ好きです!」って心の中で思っていました。飄々としているけど、「ただ飄々と作るだけじゃつまらない」という千和さんの女優魂も感じられて、千和さんと作られたレクシーとこんなに長いこと掛け合いができて最高に楽しかったです。
斎藤 ありがとう。私が豊永くんを一番羨ましいなと思うのは、ちゃんと儚いところ。私は声質のせいなのか、私自身の図太さのせいなのかわからないけど、なかなか儚く死ねないんですよ。だから、そういう儚さ、病弱者、死にそうな感じをちゃんと持っている豊永くんはすごく羨ましいなって思います。音楽に例えると、私はサンバみたいな感じなんだよね(笑)。豊永くんはどちらかと言うとバラードとかジャズっぽいじゃない?
豊永 わかりやすい(笑)。でも、それは逆も然りだと思いますよ。僕はどうしてもどこかに影を含んでしまうところがあるから、千和さんのように煌々と照らせる人にはなれないなということは昔から思っていたので。ただ、その違いがあるからこそ、今回こうしてレクシーとファーマンという真逆のキャラクターとして共演できたんだと思います。
斎藤 そっか、陰も陽もどっちも必要なんだってことだね!
──ちなみに、もしお二人がエチカのように誰かの機憶にダイブできるとしたら、誰のどんな記憶を覗いてみたいですか。
豊永 僕は監督さんや音響監督さんの頭の中に入れたらいいなって思います。「この感情が欲しい」というのって言語化するのも、それを受け止めるのもけっこう大変なんですよね。そんなときに頭の中を共有できたら言いたいことが一瞬で伝わるから、アフレコがすごく円滑に進む気がするなって。
斎藤 確かに!私は、役者同士で繋がるのもいいなって思う。「本当はこういう芝居をしたいけど、そうするとメインを潰してしまうかもしれないな」みたいに考えるときってあるじゃないですか。そういうときに役者同士で「どこまでやる?」「私はこういう芝居をしようと思ってる」とお互いに共有できたら楽しそうだよね。
豊永 あ、それいいですね!
斎藤 あと、「マイク、どこに入る?」「俺、こっちに入ります」というやり取りのときも便利そうだな、って。新人のときってスムーズなマイクワークがわからないから、私の経験値を若い子に教えてあげたいなって常々思っているんですよ。でも、それって口で説明するのはなかなか難しくて。だから、逆に自分がダイブされる側になってそういうのを見せてあげられたらいいなって思います。
──ありがとうございました。では、最後に、今後の展開を楽しみにしている皆さんに向けてメッセージを!
斎藤 第1話から第4話はアミクスという存在の根幹の是非を問うようなお話でしたが、ここから先はエチカとハロルドが何を選択していくのかが描かれていくと思います。それがある意味でこの物語の本筋になっていくと思いますので、どうぞそのあたりに注目して楽しんでいただけたらうれしいです。
豊永 ヒエダ電索官とハロルドのバディがどうなっていくのかに注目しつつ、引き続き、「ユア・フォルマ」というものが存在するこの世界をより堪能していただけたらと思います。きっと皆さんも第4話までで作品の大まかな雰囲気は掴めていると思うので、その知識を活かしつつ、ヒエダ電索官の捜査にご協力ください!