新海誠監督の最新作『星を追う子ども』が本日5月7日(土)、シネマサンシャイン池袋・新宿バルト9ほか全国劇場にて公開された。シネマサンシャイン池袋・新宿バルト9では新海誠監督、アスナ役・金元寿子さん、シュン/シン役・入野自由さん、モリサキ役・井上和彦さんによる初日舞台挨拶を開催。ここでは新宿バルト9での舞台挨拶の模様をレポートする
――『星を追う子ども』はこれまでの新海監督の作風とは違うようにも感じますが、この作品にどのような想いを込めたのですか?
新海 この作品は2年前から製作を始め、1ヶ月半前に完成。そして本日公開を迎え、長かった仕事がようやく終わったんだなという気持ちになりました。これも皆さんのおかげです。ありがとうございました。これまで僕が作ってきた作品は日常生活を美しく描くことを目的にしていたんです。ですが今回はもう少し単純に、劇場に座っている2時間、映像と音楽と物語に浸っていれば、それだけで楽しめるような作品にしたいなと考えました。前作『秒速5センチメートル』を作った後に、しばらく海外に行っていたのですが、日本の生活様式を深く知っていなければ入り込めないこれまでの作品では、海外の方には心から楽しんでいただくことはできないと感じ、次回はシンプルに観て楽しめる作品にしたいと思ったんです。
――キャストの皆さんは作品に参加されてみていかがでしたか?
金元 アスナはこの作品の中でいろんな経験をしていくのですが、私自身も3日間のアフレコの中ですごくたくさんの経験をさせていただきました。本当にアスナと一緒に旅をしたような気持ちです。皆さんの目にアスナがどのように映るのかなとドキドキしていますが、共感していただける部分が少しでもあったら嬉しいです。一生懸命頑張りましたので、この後の上映を楽しみにしていてください。
入野 シュンとシンの二役を演じさせていただいたのですが、二役やって大変じゃないですかとよく質問されるんです。ですが、それぞれ異なる人生を持つキャラクターですので、特に大変と感じることもなく、素直に演じさせていただきました。監督の中で世界観やキャラクターの設定がはっきりと固まっていて、オーディションのときからその説明が全くブレないので、安心して収録に臨むことができました。シュンは神秘的に、シンは少年らしさを持った男の子でというイメージがしっかりあったので、すごく演じやすかったですし、とてもいい物語でしたので、演じていてすごく楽しかったです。あのシーンがああだったよねとか、話したいことはいろいろあるのですが、まだご覧になっていない方もいらっしゃいますので、まずはまっさらな気持ちでこの後作品を楽しんでいただけたらと思います。
井上 モリサキはこの中では年齢的に一番大人なのですが、アスナと一緒に旅をすることによって、内面的にも大人として成長していきます。人を愛するということはどういうことなんだろうと考えさせられる役でした。アフレコ前に役作りの場を設けていただき、金元さんと一緒にこういうキャラクターでいきましょうと相談したおかげで、アフレコはとてもやりやすかったです。収録は3日間と短い期間だったのですが、いいチームワークでやりきれたと思います。
――キャストの皆さんのお話を聞いて、監督はどのように思われましたか?
新海 この作品はみんなが旅をしていく物語で、3人にそれぞれの目的があり、少しずつ違う方向を向いているんですが、最後には同じ場所に向かって歩いていくというお話なんです。登場人物たちの心の移り変わりが複雑で、難しいところも多かったんじゃないかと思いますが、とても素晴らしい演技をしていただき、本当に良かったです。
――キャストの皆さんは新海監督にどのような印象をお持ちですか?
金元 この作品で新海監督に初めてお会いしたのですが、オーディションのときからすごく優しく接していただきました。アスナの台詞ひとつひとつを大事にされていて、細かく的確な指導をしていただいたおかげで、とても分かりやすくアスナを演じることができました。
新海 金元さんはオーディションのときは、まだイカ娘が始まる前だったんですが、アフレコをするときにはすっかりイカ娘になっていて(笑)。声優さんって役を演じることで変わるんだなぁと驚きました。
金元 あんなに影響受けるのは私だけかも知れないです(笑)
新海 すごく真面目な、声の裏側に張り詰めた緊張感が感じられる人で、今日も「え!?」と耳を疑りたくなるようなことがあったのです。金元さんは昨日、劇場に様子を観に来られたそうで――
入野・
井上 !?
金元 明日ここで舞台挨拶があるんだと思って、前売券とチラシを持って帰りました(笑)
入野 お買い上げありがとうございます(笑)。アフレコでもものすごく緊張されてましたよね。
井上 僕と自由で緊張をほぐそうと一生懸命ふざけて、大変だったよね(笑)
入野 和彦さんがアイマスクをして笑わそうとされていたりとか(笑)。でもその緊張している様子が、旅に出るアスナとイメージが被りました。とてもいい雰囲気の現場で、監督は僕たちが迷ったときにはっきりと答えを提示してくれる信頼できる方ですし、音響監督の三ツ矢さんとのコンビネーションも絶妙でした。
新海 なにかリテイクをお願いするときは、すべて三ツ矢さんを通じてお願いしていました。特に井上さんは僕にとっても大先輩ですので、「そこはこういう風に」とちょっとお願いするだけでも、覚悟を決めないと言えなかったんです(笑)でもリテイクにも嫌な顔ひとつせずに、素晴らしい演技をしていただきました。入野さんは休み時間『モンハン』されていたのが印象に残っています(笑)。本当に楽しそうに演技をしていただき、「収録が終わっちゃうのが寂しいです」という言葉に、ものすごく勇気づけられました。
――最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。
新海 『星を追う子ども』はたくさんのスタッフで2年間かけて作った作品です。今日は代表して僕たちがこの場に立たせていただきましたが、僕たちの後ろに200人ほどのスタッフが立っていると考えてください。3月11日に東日本大震災が発生しましたが、今アニメを作っている場合なのかと、その時は考えざるを得ませんでした。アニメは娯楽でしかなく、衣食住に勝るものではありません。ですがアニメの製作者として、娯楽にしかできないこともあると信じたいんです。心に傷を負ってしまったとき、娯楽によってその傷が少しでも良くなればと考えています。僕もこれまでいろいろな作品に助けられてきましたので、この作品が少しでも皆さんの心に残れば幸せです。
――ありがとうございました。